れで、全部だった。食べるためには米と味噌。そのほかに、蝋マッチひと包みだけはいっていた。
戦場の兵士と同じ労苦をあえてしようという素朴の感情のほかに、自分らの肉体に精密器械のような緻密性を課したのである。
廃鉱にたどりつくと、息をつく間もなく採鉱を開始する。
重力偏差計で鉱脈をさがし、傾斜儀《クリノメーター》や磁力計で鉱床の位置をきめ、『直り』を探り、露頭を削り、岩層を衝撃し、鉱石をくだき、※[#「てへん+宛」、第3水準1−84−80]《わん》掛し、樋《とい》で流し、ピペットで熱し、時計皿にかけ……、未明から夜なかまで、鉱夫のするはげしい労働から分析室の仕事までを、全部自分たちでやってのけた。
四人ともすっかりやせこけてしまい、顔のなかに、寄りつきがたいような辛辣《しんらつ》な表情が彫りこまれるようになった。
完膚《かんぷ》ないまでにひとつの鉱山をやっつけると、この切迫した表情と、いよいよ昂揚する精神をひっさげて、疾風のようにつぎの鉱山へ乗りこんでゆく。この労働にささげない一|分《ぷん》は、むだな一|分《ぷん》だというふうに。
こんなひどい苦労をつづけてきたが、いままでの五
前へ
次へ
全59ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング