一年間、研究室のレトルトや電離函から離れ、四人の努力で一つでも多くの廃棄金山を復活させようと申しあわせた。これが、自分たちの力でなしうるもっとも適切な仕事だと考えたからである。
 この四人の若い学者たちは鉱山学にも深い知識をもっていたので、この仕事がどんなに困難なものか、最初からはっきりと知っていた。知識ではなく、不撓《ふとう》不屈の精神だけがこの仕事をなしとげさせるであろうということも。
 四人は、日本中の廃棄金山の鉱床《こうしょう》を調べ、過去の鉱量を精密に計算して、もっとも有望だと思われる六つの鉱山を選び出すと、四月のある朝、腰に砕《さい》鉱用の鉄鎚《スレッチ》をはさみ、耳おおいのついた古びた眼出帽《めだしぼう》をかぶり、首にタオルを巻きつけ、小山のような背嚢《ルックザック》を背負って、まず北陸へ向って出発した。
 この大きな背嚢《ルックザック》は、探鉱《プロスペクチング》と分析に必要な器械や薬品類だけが詰め込まれ、生活に必要なものはこっけいなほど無視されていた。――一枚の寝袋《スリーピング・バッグ》、共同の一つのコッフェル、フォークのついた五|徳《とく》ナイフ、コップが一つ。こ
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