のだと手まねで説明した。
ようやく原因はわかったが、どの程度の負傷なのかわからないし、どういう手当をすればいいのか見当がつかないので、ともかく医者を呼んでくることがさしあたっての急務だった。
キャラコさんが、ちゅうちょなく立ちあがった。
「あたし、行ってきますわ」
時計を見ると、夜なかの二時だった。小雨がふり、それに、風が出かけていた。
三枝氏がおどろいて、とめた。
「冗談じゃない、キャラコさん。こんな夜ふけに、あなたのようなお嬢さんをひとりでやられるものですか。私が行きます」
「だいじょうぶよ、心配しないでちょうだい。そんなことをなすったら、あなたあしたの仕事に差し支えるでしょう。あたしは遊んでいるんですから、あたしが行くのが当然よ。こんな時のために、あたしがここにいるんですわ」
そして、黒江氏の顔をのぞき込むようにしながら、いった。
「すぐ医者を呼んで来ますから。元気を出していてちょうだい」
黒江氏は、首をふって、いやいやをした。急に気が弱くなって、眼をしっとりとうるませていた。キャラコさんに、そばにいてもらいたいのらしかった。
山下氏が、いつになく懇願するような調子
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