いして熱はなかったが、もし、脳溢血《のういっけつ》で倒れたのでもあったら、へたに動かしたらたいへんなことになると思って、そのままそっと床《ゆか》に寝かしたまま、しずかに、三人を呼び起こした。
「すみませんけど、ちょっと、起きてちょうだい」
三人は、すぐ眼をさました。が、キャラコさんがいつもと変わらないようすをしているので、こんなたいへんなことが起きているとは、とっさに気がつかなかった。
山下氏だけは、何かけはいを感じて、キュッと顔をひきしめながらたずねた。
「どうしました、キャラコさん」
キャラコさんが、しっかりした声で、いった。
「ちょっと、黒江さんのようすを見てちょうだい。ひどく悪いのだったら、これからすぐ医者を迎えにゆかなくてはなりませんから……」
そういっておいて、じぶんは急いで黒江氏の寝床をつくり、洗面器に清水《しみず》を汲《く》んでタオルと一緒に枕もとへそなえて置き、いつでも医者を迎いに出かけられるように甲斐甲斐しく身支度をしはじめた。
黒江氏は、間もなく意識をとり戻した。ぼんやりした眼つきで皆の顔を見廻していたが、頭がはっきりすると、吸管の炎を吸い込んでしまった
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