に吸いこんで大怪我《おおけが》をしてしまった。
 黒江氏は炎などを吸い込む気はなかった。
 夜がふけて、しんしんと小屋の中が冷えてくると、例の咳がはげしくなってくる。自分の咳で仲間やキャラコさんの眠りをさまたげまいと思って、がまんにがまんをかさねる。突然、咽もとへ突っかけて来た咳の発作をこらえようとして、無意識に息をひいたとたん、吸管の炎を深く吸いこんでしまったのである。
 たいへんな怪我だったけれど、黒江氏は、みなを驚かすまいと思って、叫び声ひとつあげなかった。
 板壁を伝ってそろそろと扉《ドア》のほうへはっていったが、とうとう力がつきて、戸口のところで気を失ってバッタリと倒れてしまった。清水《しみず》で咽喉《のど》を冷やし、そっと自分で始末してしまおうと思ったのである。
 最初に発見したのはキャラコさんだった。
 キャラコさんは眠っていたのではなかった。いつものように食卓の上に蝋燭を立てて、せっせと鉱物学の常識を養っていた。入口の扉のほうで何か重いものが倒れたような音がしたので、そっと出て来てみるとこの始末だった。
 キャラコさんは、たいへん沈着だった。
 額に手をあてて見ると、た
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