と叫びたくなるのをいっしんにがまんする。
四人は、ひと区切りがつくまで仕事をやめない。それを中断されるとあまり機嫌がよくない。キャラコさんはそれを知っているので、決して邪魔をしないようにしている。
キャラコさんは、矢車草の花の中へ坐って、しんぼうづよく、いつまでも待っている。
ようやく、槌《つち》の音がやむ。谷底から、おーい、という声がきこえる。谷底をのぞきこんで見ると、四人が崖の上をふりあおぎながら手をあげて叫んでいる。キャラコさんは、勢いこんで、いっさんに崖道を駆けくだる。
五人は、河原の涼しいところに坐ってお弁当をひらく。
四人とも、ひどく腹をすかしていてむやみにたべる。やっこらしょと下げてきたたくさんのおむすびが、たちまちなくなってしまう。
午飯《ひる》がすむと、ちょっと一服する。誰も大してはずんだようなようすは見せないが、すくなくとも、不愉快そうではない。煙草の煙りをゆっくりと吹きだしながら、重い口で冗談めいたことをボツリボツリといい合う。以前にくらべると、これだけでもたいへんな変化だった。
三枝氏が、むずかしい顔をして考え込んでいたが、何か重大な感想でも打ち明
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