、なにか大急ぎに急いでいることだけははっきりとわかる。いったい、どんなさしせまった用事で、こんなに夢中になって急いでいるのだろう。
じっさい、一風変わった一行だった。まるで、敵でも追撃するような勢いで疾走してゆく。立ちどまりもしなければ口もきかない。必要があると、ごく短い簡単な言葉を互いにす早く投げあう。外国語らしい言葉もときどきまじる。山窩《さんか》のようなむざんなようすをした男たちの口から、そんな言葉がとびだすのが、だいいち、いぶかしい極《きわ》みだった。面《おも》ざしはいちいちちがうのに、なぜかひとつの顔のような印象をあたえる。この四つの顔は、ひどくさしせまった同じ表情でつらぬかれているのだった。
キャラコさんは、他人の生活に無《ぶ》遠慮に立ちいるようなたしなみのない娘ではない。他人のことに興味などを持ちたがらないのが自分のねうちだとさえ思っているのだが、この奇妙な一行には、なぜか、つよく心をひかれた。なんのためにそんなに血相をかえて急いでいるのかきいて見たくなって、のんきな顔をしながら四人のあとについて歩き出した。四人のほうでは、キャラコさんのことなどは、てんで問題にしてい
前へ
次へ
全59ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング