見ず知らずのお嬢さんにこんなに親切にされて、それが感じられないんじゃ、諸君は、相当な非人間《インユウメン》だぞ」
山下氏は、唇のはしにおだやかな微笑をうかべながら黙ってきいていた。かくべつ、原田氏の意見に反対するようなそぶりはしなかった。
五
毎朝、キャラコさんは、まだ東が白まないうちに起きあがる。火を焚《た》きつけて朝のご飯をしかけると、眠っている四人の眼を覚まさないように、手早く、しずかに部屋の中を掃除する。まるで自分の心の中のように部屋を掃く。どんな隅でも掃き落とさない。
四時半には、小屋の中がさっぱりとなっている。掃除がすむと、鉱山《やま》でつかう道具をそろえて、すぐ出かけられるようにしておく。五時には台所の食卓の上で、味噌汁とご飯が湯気《ゆげ》をあげて山へ行く四人を待っている。五時になると、四人がいっせいに起き出す。朝飯《あさはん》を喰べている間にサッサと寝床を片づけ、寝袋《スリーピング・バッグ》をよくたたいて戸外《おもて》へ乾《ほ》す。四人が出かけてゆくと、分析台の掃除にとりかかり、それがすむと洗濯をしたり繕《つくろ》いものをしたりする。十時になると、そろ
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