を追い詰められるように、岸のところへ古い蛇籠《じゃかご》と木の枝を沈めて※[#「竹かんむり/奴」、第4水準2−83−37]《ど》のようなものをつくった。
二時間ばかりかかって、簗《やな》を張り終えると、ずっと川上から流れの中へ入って、真剣な顔つきをしながら、そろそろと魚を追いおろしにかかった。
夕靄《ゆうもや》がおりるころになって、四人が小屋へ帰ってきた。
「お帰りなさい。たいへんだったでしょう」
キャラコさんは、小屋の入口まで走り出してひとつずつ鉄槌《スレッジ》を受け取ると、四人を清水《しみず》のわいているところへ連れて行った。
「顔と手を洗って、ちょうだい」
四人はよわよわしい反抗の身ぶりを示したが、ニコニコ笑いながら立っているキャラコさんのなんともいえない愛想のいいようすを見ると、抵抗し切れなくなったとみえて、観念したようにしぶしぶ顔を洗いはじめた。
大男の原田氏は、狼狽のあまり、たったひとつしかないキャラコさんの石鹸を手からすべらせて、どこかへなくしてしまった。
キャラコさんは、四人を台所兼用の『食堂』へ案内して、自然木《しぜんぼく》でつくった大きな食卓のまわりに
前へ
次へ
全59ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング