んだ。この大きな川をかいぼりするのかしら……」
しかし、それより方法がないとなると、やっつけるよりしようがない。
キャラコさんは、だいたい思いきりのいいほうだから、いつまでもグズグズ考えていない。スカートの裾をたくしあげると、すぐさまかいぼりの実地検分にとりかかった。
丹沢の地震のとき、このへんもだいぶひどくやられたとみえ、凝灰石《ぎょうかいせき》の大きな岩がいくつも川の中へころげ落ちて、ところどころで流れをせきとめている。その岩と岩との間を簗《やな》でふさいでゆけば、どうにかかいぼりができそうな工合だった。
キャラコさんは、物置小屋に古い葦簀《よしず》があったのを思い出し、小屋まで駆け戻ってそれをひと抱えかかえて来た。
おもしろいどころではない。キャラコさんは、もう一生懸命だった。四人にこのみごとな虹鱒を喰べさせてあげたいという思いで、胸のしんが痛くなるほどだった。
膝までザブザブ水の中へはいって、岩と岩の間へ葦簀を張って、その裾のほうを石でしっかりととめて行った。
中瀬《なかせ》のところは流れが早くてたびたび失敗したが、いくども根気よくやり直してどうにかやりこなし、魚
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