いってくるなんてことはとても期待ができない。いずれにしろ、釣るとか捕まえるとかするほかはないのだが、綸《いと》もなければ鈎《はり》もない。網の代用になるようなものも思いつかない。
キャラコさんは、無念そうな顔をして水の面《おもて》をにらみつけていたが、なかなかいい考えがうかんで来ない。
「……困ったわね。こんなたいへんなご馳走が目の前で泳いでいるというのに、手も足も出ないというのはあまり情けないわ。なんとかならないものかしら」
虹鱒は、キャラコさんをからかうように、すぐ眼の前で水の面《おもて》へ飛び出して、ボシャンと大きな音をたてて水の中へ落ち込む。キャラコさんは、腹を立てる。
「そんなふうにたんと馬鹿にしていらっしゃい。いまに、つかまえてあげるから……」
キャラコさんは、川下のほうを眺めながら、腕を組んで、かんがえる。
「……釣鈎《つりばり》も網もないとすると、簗《やな》をつくってかいぼりするよりほかないようね」
水はせいぜい膝がしらぐらいの深さしかないが、五|間《けん》ほどの幅で、岩にせかれながら相当早い瀬《せ》をつくって流れている。ちょっと手軽にゆきそうもない。
「たいへ
前へ
次へ
全59ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング