坐らせた。
 主座には、色のさめたような蒼白い顔をした山下氏がついた。その右に、小さな円い眼をした縮れ毛の三枝氏。その向いが、どっしりと坐りのいい頑丈な原田氏。その隣りに、髯さえも悲しげな、しょっちゅう咳ばかりしている黒江氏が坐った。四人は、小屋の中があまりきれいになっているので、当惑したような顔つきで、眼のすみからジロジロと見まわしていた。
「思うようなことができませんでしたけど、どうぞ、どっさりあがって、ちょうだい」
 キャラコさんが、すこし上気したようなようすで、食卓のうえの白い布を取りのけた。
「ほう!」
 四人は、思わず、吐息とも嘆息ともつかぬ低い叫び声をあげた。
 食卓の上には、冷静な科学者の眼をも驚かすほどのすばらしいものがのっていた。
 かたちのいい川魚が、金色のころもをつけて、エナメル塗りの白い分析皿の上でそっくりかえり、現像用の大きなパットの中には、緑色の新鮮なサラダが山盛りになっている。そのとなりで、赤くゆであげられた海老《えび》のようなものが威勢よく鋏《はさみ》をのばし、山蘭《やまらん》の花をうかせたどろりとしたスープが手《て》コップの中で湯気《ゆげ》をあげてい
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