しゃべりましたわ。……申しあげたいことは、まだどっさりありますけど、もうこれくらいにして置きますわ。……どうぞ、あたしをおしゃべりだと思わないでくださいね。ふだんは、これでも無口なほうなんです。あたし、一生懸命だったからなんですわ」
 山下氏が、意見をたずねるように三人のほうへ振り返った。三人は思い思いの仕方でうなずいた。
 山下氏は、キャラコさんのほうへ向き直ると、冷淡な口調で、いった。
「よくわかりました。……お見受けするところ、あなたは、男の仕事の邪魔をする、やり切れないお嬢さんとはすこしちがうようだ。仕事を助けてくださるという意味でなら、いてくだすって差し支えありません。……みなも、……どうやら……賛成しているようですから」

     四
 次の朝、まだ薄暗いうちに、四人は元気よく鉱坑のある谷間のほうへ降りていった。
 キャラコさんは、たいへん忙しい。
 四人の大《だい》の男をじゅうぶんに食べさせ、居心地よくさせ、くつろがせ、慰安をあたえ、休養させ、やすらかに眠らせ、……食べることから、身のまわりのいっさいのことを、十九になったばかりのこの二本の細い腕でやっつけなければならな
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