いう機会《チャンス》にめぐまれることがありませんの。……だから、みなさまのような方にお逢いできたのは、あたしにとっては思いがけないしあわせでしたわ。意味もなく歩き廻っていただけですんでしまうかも知れなかったのですものね。……ところで、あたしが、みなさまにお逢いしたおかげで、この旅行は、たいへんな意義をもつことになりました。みなさまのお世話さえしてあげれば、間接に日本のなにかに寄与することになるのですから、こんなすばらしいことってありませんわ。……これが、あたしの決心の動機よ」
 山下氏が、むずかしい顔をほころばせて、眼に見えないほどの微笑をした。
 キャラコさんは、一歩前へ進み出て、胸を張って、いった。
「あたしは、こんな若い娘ですが、決してグニャグニャではないつもりですわ。それから、父も兄弟も従兄《いとこ》も、みな、あたしを信用していてくれます。あたしに絶対の信頼がかけられているんです。理由のあることなら何をしてもいいことになっていますの。ですから、あたしが、突然飛び込んで来たことで、みなさまにご迷惑をかけるようなことは決してあるまいと思いますわ」
 愛想よく笑って、
「……ずいぶん
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