山下氏が、三人のほうへチラと振り返ってから、いぜんとして冷静な口調で、
「……それで、どんな動機でわれわれの手助けをしようなどと決心なすったのですか。……それに、あなたはいったいどういうお嬢さんなんです。まだ、それをうかがっていないようでしたね」
 キャラコさんが、大きな声で、笑いだす。
「そうですわ。それからさきに申しあげなければならなかったのですわね」
 急に、まじめな顔つきになって、
「……あたしのいまの境遇は、すこし奇抜すぎるようなところもありますので、信じていただくよりしようがありませんけど、あたし、最近、ある方からたいへんな財産を譲られましたの。それがあまり評判になったので、父がうるさがって、当分東京へ帰ってくるなというのです。ずいぶん困ったはなしですわね。……嘘でない証拠に、父の手紙をお見せしてもいいわ。……従兄《いとこ》の秋作の意見では、こんな機会にすこし世間を見て置くほうがいいだろうというので、あてなしに旅行をしていたんですの。……ご存知ないかも知りませんけど、今のあたしたちの年ごろの娘たちはどんなに精一杯な仕事をしたがっているか知れませんのよ。でも、めったにそう
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