いるうちに、双方の距離がだんだん縮まってきた。
 峠のてっぺんで、とうとう四人を追いぬいた。
 キャラコさんは、くるりと四人のほうへふりかえると、のどかな声で、いった。
「ほらね、早いでしょう」
 泥だらけの四人の鉱夫は、ちょっと足をとめると、なんだ、というような顔つきで、いっせいにキャラコさんの顔を見すえた。
 無精髯《ぶしょうひげ》が伸びほうだいに顔じゅうにはびこり、陽に焼けた眉間《みけん》や頬に狡猾《こうかつ》の紋章とでもいうべき深い竪皺《たてじわ》がより、埃《ほこり》と垢《あか》にまみれて沈んだ鉛色《なまりいろ》をしていた。
 四人ながら、顔のどこかにえぐったような傷あとをもっていて、このどうもうな顔をいっそう凄まじいものにみせる。どんな残忍なことでも平気でやってのけそうな酷薄《こくはく》な眼つきをしていた。
 四人の山売《やまうり》は、けわしい眼つきでキャラコさんの顔をながめていたが、そのうちに、きわだって背の高い、冷やかな顔つきをしたひとりが、三人のほうへ振りかえって、ささやくような声で、いった。
「なにをいってるんだ、こいつ」
 小さな、円い眼をした貧相な男が、無感動な声
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