したような布目もわからないコールテンのズボンをはき、採鉱用の鉄鎚《てっつい》を腰にさし、背中がすっかりかくれてしまうような大きな背嚢《ルックザック》を背負《しょ》っていた。風体《ふうてい》からおすと、ひとくちに『山売《やまうり》』といわれる、あの油断のならない連中らしかった。
ともかく、あまり礼儀のあるやりかたではなかった。そのうちの一人の手は、たしかにキャラコさんの肱《ひじ》にふれ、かなりな力で道のはじのほうへ突きとばした。
不意だったので、キャラコさんは道のはしまでよろけて行ったが、そこで踏みとまって、れいの、すこし大きすぎる口をあけて、快活に笑いだした。
おい、おれたちに追いついてごらん。……通りすがりに、きさくな冗談をして行ったのだとおもった。
キャラコさんは、笑いながらいった。
「見ていらっしゃい、どんなに早いか」
きっと唇《くち》を結んで、いっしょう懸命なときにするまじめな顔をつくると、前かがみになって、熱くなって歩きはじめた。
山売の一行は、はるか向うの橋のうえを飛ぶように歩いている。駆けだすのでなければとても追いつけそうもなかったが、三十分ほどせっせと歩いて
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