食をするために道ばたへ立ちどまった。
背嚢《ルックザック》から乾麺麭《かんパン》の包みを取りだすと、掌《てのひら》の中でこなごなにくだき、たいへん熟練したやりかたで唾《つば》といっしょに鵜《う》飲みにしてしまう。
一枚すむと、すぐ次の一枚にとりかかる。これを、腰もおろさずに立ったままでやっつけるのだった。
昼食は三分とはかからなかった。
口のまわりの乾麺麭《かんパン》の粉を払い落として、水筒の水を一杯ずつ分けて飲むと、背嚢《ルックザック》をゆすりあげてサッサと歩き出した。
キャラコさんは、これだけのことで、この四人の連中が、今までどんな無頓着な日常を送っていたか、なにもかもわかるような気がした。
仕事に魂をうばわれた、この狂人《きちが》いじみた科学者たちは、まともな食事をするのをめんどうくさがって、朝も晩も乾麺麭《かんパン》ばかり喰べてすましているのにちがいなかった。四人の仕方で、それがはっきりとわかるのである。
キャラコさんが、やさしく訊問《じんもん》した。
「ずいぶん手軽にすみましたね。……けさは、なにをお喰《あが》りになったの?」
黒江氏が、大儀そうに、こたえた。
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