うまで手答えがないものだとは考えていなかった。……研究室の中でなら仕事の過程のうちで、ちょっとした反応がわれわれを慰めてくれたり、希望を与えたりしてくれるもんなんですが、なにしろ、掘れるだけ掘ってしまったあとばかし行くんだから、そこから金を探そうというのは、空気の中でクリプトンを探すよりまだむずかしい。いくら科学の力でも、腐土《ふど》を金にするわけにはゆきませんからな。しかしね、……」
 急に快活な口調になって、
「しかし、今度はどうやらうまくゆきそうです。……今まではね、上総掘《かずさぼ》りというのでやっていたんですが、今までの失敗は、たしかに方法が不完全だったせいにもよるんです。……ところで、こんど、東京で電気|試錐《しすい》機というやつを仕入れて来ましたから、こいつでなら、必ずいい成績をあげることができると思うんです。……その一部分はこの中へ入っていますが、相当しっかりしたやつなんです」
 子供が玩具《おもちゃ》でも楽しむように、眼鏡の奥で眼を細くして笑いながら、手をうしろへ廻して、ポンポンと背嚢《ルックザック》をたたいて見せた。
 須走《すばしり》の方へ峠を降りきると、四人は昼
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