い。長六閣下とじぶんの名誉にかけて、宣言しただけのことは、やってのけなければならないのである。
 四人が出かけてゆくと、キャラコさんは、小屋の掃除にとりかかった。
 床板《ゆかいた》のあいだから生え出している草をたんねんにむしりとり、四つの窓には四人の防水|衣《ぎ》をカーテンのかわりに掛けた。炊事場の棚をつけなおし、落葉でつまっていた樋《とい》を掃除して、清水《しみず》が流場《ながし》へ流れこむようにした。雑草のなかに倒れていた扉《ドア》をひきおこし、骨を折ってこれを入口にとりつけた。
 これに、午前いっぱいかかってしまった。
 小屋のなかが片づくと、そろそろ夕食の支度にとりかからなくてはならない。まず、炊事道具と食糧の検査をはじめた。
 四人がしょってきたものは、たいへん貧弱である。コッフェルが一つ、フォークのついたナイフが四挺、アルミのコップが四つ。……これでは、ないほうがましなくらいである。
 材料のほうになると、これもまた心細いきわみだった。キャラコさんのぶんを合わせて、つぎのような貧弱な材料で、村へ買出しにくだる日までもちこたえなくてはならない。

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(キャラコの分)コッペ二つ、レモン二個、角砂糖一箱、板チョコレート二枚。
(四人の分)米、塩、味噌、乾パン、熱量食。
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 キャラコさんは、意想の天才である。このような場合には、たいてい独創的な思いつきをしてひとを驚かすのだが、この貧弱な材料で四人の男を四五日養うというのには、たしかに、神の助けが必要なようである。
「困ったわね。これでは、どうにもならないわ。とりあえず、なにか力のつくものを喰べさせなければならないというのに……」
 キャラコさんは、途方に暮れたようにため息をついていたが、間もなく気をとりなおして、男のように腕を組んでいろいろと工夫しはじめた。
 しかし、思いつきをするのに、たいして時間はかからなかった。
「……裏山《うらやま》へ入ると、蕗《ふき》ぐらいあるかもしれないし、ひょっとすると、川には岩魚《いわな》なんかいるかも知れないわ。……ともかく、出かけてみるこったわ」
 大急ぎで米をとぐと、裏山へ駆けあがって行ったが、木苺《きいちご》がすこしあるばかりで、喰べられそうなものはなにひとつ見当らなかった。
 キャラコさんは、ガッカリして、情けない声を
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