」
キャラコさんが、やさしく抗議した。
「あんなのが親切というのでしょうか。あなたをうるさがらせただけですわ。あたし、差し出がましいまねをしたばかりに、あんなにあなたをいら立たせてしまって申し訳ないと思っていましたの。あたし、出しゃばりで、ほんとうにいけないのよ」
「親切だといっていけなければ、たいへんに心の深いお嬢さんだと申しあげましょう。……あなたは私の歩く道の石ころをみなとり除《の》けてくださいましたね。ちゃんと知ってます」
キャラコさんは、閉口して黙り込んでしまった。
「……それから、二股《ふたまた》道のかどの木の枝に、石を入れた空鑵《あきかん》をつるして、風が吹くとカラカラ鳴るようにして置いてくだすった」
「…………」
「私は、その音をたよりに、迷わずに湖水のほうへ出てゆけるのです。帰るときも、またその通り、わき道へはいり込まずにすみます」
佐伯氏は、深い感動のこもった声で、
「……昨日まであんなものはありませんでした。……お嬢さん、あなたがしてくだすったのですね」
佐伯氏の口調が、あまり切実なので、キャラコさんは度を失って、思わずうつ向いてしまった。
「あなたが、し
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