たいて二階へ追いあげ、二人ずつひとつの寝台へ押し込んで丁寧に毛布でくるんでやった。
キャラコさんは、梓さんと二人で仲良く寝床へ入った。山の中の夜はしんとしずまりかえり、遠い雪山が青く光っていた。
二
空はクッキリと晴れているし、雪質は申し分ないし、キャラコさんは午前ちゅう夢中になってすべった。
昼食がすむと、みなは志賀ヒュッテまで遠征することになった。
天狗岩の下を通って行くと木戸池のほとりへ出る。ちょっとしたプロムナアドにはたいへん快適で、このコースはキャラコさんも大好きだったが、長六閣下に手紙を書かなければならないので、ひとりだけ小屋に残った。
夕靄《ゆうもや》がおりるころになって、一行はたいへんな元気で帰って来た。スロープのずっと下からキャッキャッと笑う声がきこえ、みな、なにかひどくはしゃいでいた。
おしゃまのユキ坊が息せき切って広間へ駆けこんでくると、キャラコさんの耳に口をおっつけて、
「ね、大事件があったの」
と、大きな声で怒鳴った。
キャラコさんは、あわてない。広間の入口のほうを見ると、梓さんをはじめ五人の顔が不足なく揃ってるし、誰といって怪我《
前へ
次へ
全53ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング