ンの大きなコップを順繰りに廻して「乾杯」をしながら、でたらめな歌をうたって騒いでいた。ベスという大きなシェパードが、一緒になってワンワン吠えながら広間の中を走り廻っていた。
キャラコさんがやって来たのを見ると、みなうれしがって、もう一遍、もういっぺんと、いくども乾杯して、苦しがってゲエゲエと咽喉《のど》を鳴らした。
二階へあがってみると、四つの寝室はまるで戦場のようなありさまだった。カアテンはひきむしられ、椅子は倒れ、スーツ・ケースはみなひっくりかえされて、下着や、靴下や、ペテーや、その他、使途不明なさまざまなものがところかまわず撒《ま》きちらされ、花瓶の中には上靴が突っ込んであるし、水差しの中には喰べかけのチョコレートとハーモニカと歯ブラシが同居している。
キャラコさんは外套をぬぐ間もなく、女中のときやに手伝ってもらって四つの寝台をキチンと片附け、鞄のものはそれぞれもとのところへおさめ、戸棚を整理したり、カアテンをつり直したり、たっぷり夕食ごろまでかかってしまった。
食事の時間はまた革命と暴動がいっしょに起きたような騒ぎだった。みなペコペコにお腹をすかし、めいめい、わけのわか
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