あるが、お父さまはたいへん濶達《かったつ》な方だし、兄弟もみな率直ないいひとたちばかりなので、その影響で、どんなちいさなことでも、自分ひとりでこそこそやったり、隠しだてしたりしない、さっぱりした気性を持っている。
器量よしで、たいそう色が白く、いつも夢を見ているような大きな眼は、何かに夢中になると急に熱ぽくなり、何か自分の思い通りしたいようなときは、思いがけない大胆な眼つきに変る。いつも、きちんと衿《えり》の詰まった、プロシアン・カラーの趣味のいい単純な服を着ている。これが、必要以上に梓さんを真面目くさくも見せ、また、あどけなくも見せる。
山小屋《ヒュッテ》は、広い料理場と乾燥室のついた、二階建のがっちりした建物で、大きな広間の天井には煤色の栂《とが》の太い梁《はり》がむきだしになっている。天井まで届くような大きな煖炉《オーフェン》の中で、白樺や落葉松《からまつ》の太い薪《まき》が威勢よくはじけ、鉄架の上で珈琲沸《パーコレーター》がいつも白い湯気をふきあげている。
四時ごろキャラコさんが山小屋《ヒュッテ》につくと、一同は、煖炉《オーフェン》の前の床に胡坐《あぐら》をかき、シトロ
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