川夫人から電話がかかってきた。
「でも、父はどういうでしょうかしら」
「ええ、それは、もう、ちゃんとお願いずみなの。……新聞記者がつめかけてきてたいへんだから、東京へ帰らずに、まっすぐそちらにいらっしゃいって。……ね、剛子《つよこ》さん、お願いしてよ」
「あのひとたち、とても、あたしの手に負《お》えませんの。……でも、そんなにおっしゃるんでしたら、お引き受けしてよ」
 あまり物事に動じないキャラコさんが手に負えないというくらいだから、その連中のやんちゃぶりはたいてい察しられる。しかし、キャラコさんは、梓さんたちの組がだいすきだ。すこし、贅沢に馴らされているようなところもあるが、どの娘もおおまかで、ものごとにこだわらず、自分のしたいと思う通りを精一杯に振る舞う。単純で、快活で、健康で、見るからに気持がいい。
 おしゃまのユキ坊や、詩人の芳衛《よしえ》さん、画の上手なトクさん、陽気なピロちゃん、チビの鮎子さん……、それぞれ、みな個性のはっきりした、溌剌たるお嬢さんたちだ。
 梓さんのほうは、すこし浪曼的《ロマンチック》で、自分の気に入ったことなら、なんでもすぐ夢中になってしまうという欠点が
前へ 次へ
全53ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング