ざわざ池へなど行ったのかしら」
ユキ坊やが、はぐらかすように、いった。
「こんなことぐらいじゃ死なないって、よく自分自身にいいきかせるためにさ」
ピロちゃんが、たしなめる。
「そんなふうに、ふざけるのはよしなさい。……何しに行ったか、って? トクさん、それは、あなただって知ってるはずだわ。……つまり、ひと泣き、泣きに行ったのさ。それくらいのことはゆるさるべきだわ。あたしたちは、まだ若いんだから……」
みな、すこしずつ元気になった。鮎子さんが、また、だしぬけに大きな声で、いった。
「……ねえ、梓さんが死にに行っただなんてまっさきに騒ぎ出したのは、いったい誰だったの?」
ピロちゃんが、こたえた。
「森川夫人さ」
「ああ、そうだったわ。それで、みな、釣り込まれてしまったのね、いやだわ」
芳衛さんが、人がちがったような快活な声で、いった。
「そんなにも、あたしたちを知らなすぎるんだわ。すこし、説明してあげる必要がありそうね」
トクさんが、すぐ受けて、
「そうね、慰安のためにもね。……ともかく、おばさまをあんなふうにひとりで放って置いてはいけないわ。みんなで行って、何かお話でもしてあ
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