げましょうよ」
 ピロちゃんが、元気よく立ちあがった。
「賛成だ。ボク、うまい話をしてやる」
 五人が広間へ降りて行ってみると、森川夫人が、煖炉のそばの安楽椅子《ソファ》に沈み込んで、ひとりで泣いていた。
 五人は、森川夫人を取り巻いて床の上へ坐った。
 ピロちゃんが、のんきな声で、いった。
「おばさま、そんなにお泣きにならなくとも大丈夫ですよ。梓さんは、もうじき帰って来ます。なにしろ、キャラコさんがちゃんと引き受けたんだから。……おばさま、あなた、ちっともご存知ないんですよ。あたしたち、どんなに元気があるか!……子供のようにしか見えないのは、あなたのお勝手だとしてもね!」

     七
 踏みつける雪が、スキーの下でキュッキュッと鳴る。
 雪の原のはるか向うに、栂《とが》の樹《き》に吹きつけられた雪が団子《だんご》のようにかたまりついて、大きな雪人形のような奇怪なようすで立っている、降ったばかりの雪の上に、シュプールが、一本、まっすぐにその方へつづいている。梓さんがすべって行ったあとだ。
 それにしても、なんという広大な雪の世界だろう。涯《はて》しもない茫漠《ぼうばく》たる雪原がた
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