で、まるで夢幻《むげん》の世界のようだった。
六
五人は、嵐に追いまくられた小鳥のようなようすで、二階の寝室でひと固まりになって坐っていた。芳衛さんは揺椅子《ゆりいす》のなかへ沈みこみ、トクさんは寝室のはしへ腰をかけ、鮎子さんとおしゃまのユキ坊やは、しんとした夜の雪山《ゆきやま》を眺めながらためいきをついていた。陽気なピロちゃんだけは、例によって、床の上へ胡坐《あぐら》をかいてのん気な顔で西洋雑誌の※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]絵《さしえ》を眺めている。
(梓さんが、自殺するために池のほうへ急いでいる……)
あまり唐突すぎて、どう考えていいのか、理性でも感情でもうまく処理することができなかった。
鮎子さんが、長いためいきをつく。窓ガラスに額《ひたい》をあてたまま、虫の鳴くような声でつぶやいた。
「キャラコさん、うまくやってくれるといいな。……もう、どのへんまで行ったかしら……」
陽気なピロちゃんが、ゆっくりと頁《ページ》を繰りながら、大きな声でいった。
「心配しなくとも大丈夫だよ。きっと帰ってくる」
ユキ坊やが、ふッ、と短
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