びつけるなんて」
それでも、さすがに心配らしく、
「それで、どんなふうなの。あなた、きいてくだすって?」
キャラコさんは森川夫人の顔を見つめながら、こたえた。
「いいえ、なにも。……あたしがきいたって、どうにもしようのないことですから」
森川夫人は、すこし顔をあからめて、
「それはそうね。……では、梓を呼んでくださらない。あたしからよくきいてみますから。……よかったら、あなたもここにいてちょうだい。……二人っきりだと、かえって話しにくいかも知れませんから」
と、笑いながら、いった。
入って来た梓さんのようすを見ると、森川夫人の笑いはいっぺんにけしとんでしまった。
「梓さん、あなた、まあ、どうしたの。そんなに痩《や》せてしまって!」
梓さんは顔じゅうが眼ばかりになったような大きな眼で森川夫人の顔を見つめていたが、突然、気がちがったように、
「ママ!……ママ!……」
と、とほうもない大きな声で叫んだ。
森川夫人は、それだけで、もう、おろおろと取り乱し、
「梓《あっ》ちゃん、あなた、どうしたの、そんな大きな声をして。……ママに御用があるなら、いってみてちょうだい。もうすこし、
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