った。
「これ、飲みなちゃいね、温《あっ》たかくなるからさ」
夕食がすむと、思い立ったように、みなが大騒ぎをはじめた。おおげさなだけで、ちっとも活気がなかった。梓さんは、大きな眼をあけて、悲しそうにそれを眺めていた。
ユキ坊やと鮎子さんが、手をとり合っていそいで広間を出て行ったが、しばらくすると、二人とも眼を真っ赤にして帰ってきた。
キャラコさんは、梓さんを朝までしっかりと腕の中に抱いていた。
暁方《あけがた》になって、梓さんが、ひくい声で、ささやいた。
「ママに、来てくれるように、ゆうべ電報をうったの」
四
次の日の十時ごろ、森川夫人があわてて駆けつけて来た。昨夜《ゆうべ》、汽車の中ですこしも眠らなかったとみえて、ひどく膚《はだ》を荒していた。
山小屋《ヒュッテ》につくとすぐ、森川夫人がキャラコさんを二階の部屋へ呼んだ。
「キャラコさん、いったい、何があったの」
キャラコさんは、自分の知っているだけのことを率直につげた。
森川夫人は、むしろ、ほっとしたようなようすで、いった。
「そんなことだったの。……いやなひとね、そんなことで、あたしをこんなところまで呼
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