なくてはならないと考えていた。
二階で、ピロちゃんが、とぎれとぎれにハーモニカを吹いている。なにか妙なぐあいだった。
キャラコさんは、みなに気づかれないように揺椅子《ゆりいす》から立ちあがると、そっと広間を出て二階へあがって行った。
ピロちゃんは、こちらへ背中を向けて窓のそばに坐り、しゃくりあげながらハーモニカを吹いている。
キャラコさんは、そのそばに寄って行って、肩に手を置きながら、
「ピロちゃん、どうしたの」
と、しずかにたずねると、ピロちゃんは急にハーモニカを投げすてて、窓枠《まどわく》にしがみついて泣き出した。
「……あたし、梓さんが、どこにいるか知っているの」
キャラコさんの胸のところがドキンといった。できるだけ気軽な口調でたずねた。
「そう、どこにいるの」
ピロちゃんはキャラコさんの腕に手をかけて、
「告げ口だと思わないでちょうだい、ね。……梓さんは、チャーミングさんのところへ行っているの」
「ピロちゃん、あなた、どうしてそんなこと知ってるの」
「あたし、見たの。きのう、二人で散歩しているのを」
そういって、両手を顔にあてていっそう劇《はげ》しく泣きだした。
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