ずねると、とんちんかんな返事ばかりした。
寝床へ入ってから、あまり静かなので、眠っているのかと思って薄眼《うすめ》をあけてうかがうと、梓さんは、闇のなかで大きな眼をあけて、瞬きもせずに天井をみつめていた。寝息《ねいき》を乱すまいとして、ことさらに規則正しい息づかいをしていることがよくわかった。手が燃えるように熱くなったと思うと、急に氷のように冷たくなったりした。いつ眼をさまして見ても、梓さんの眼はあいていた。
次の朝、いつものように、
「昨夜《ゆうべ》は、よく眠れて?」
と、たずねると、梓さんは、
「ええ、よく眠れたわ」
と、大儀そうにこたえた。
顔つきが急におとなっぽくなり、それに、血のけというものがなかった。どんな小さなことでも胸のうちにしまって置けず、すぐなんでも話してしまう、気さくな梓さんのこの変りようがキャラコさんを驚かした。
キャラコさんは、梓さんがいま何を考えているかわかるような気がしたが、軽率なあて推量をしてはならないと思って、それ以上は深くかんがえないことにした。もし、自分が推察していることが本当だったら、その時、自分がとるべき態度だけははっきりきめておか
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