切れっぱしは、みなひとまとめにして戸棚のなかに押し込まれ、広間は見ちがえるほどきれいになった。
 画のじょうずなトクさんは雪の下から掘り出したはりえにしだ[#「はりえにしだ」に傍点]の枝で奇妙な生花を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《い》けた。
 詩人の芳衛さんは、宝石細工人のような熱心さで、林檎《りんご》に息をふっかけては服の袖《そで》で磨いた。
 チビの鮎子さんは、ろくな服を持って来なかったとひっきりなしに愚痴をこぼし、ピロちゃんは靴が小さくなったといって地団太《じだんだ》を踏んだ。
 おしゃまのユキ坊やは、毛皮のついたカーディガンのツウ・ピースを着て、しゃなりくなりと広間へ入って来たが、生花の枝に袖をひっかけて花瓶を倒し、腰から下をびしょ濡れにしてべそをかいた。
 梓さんは長い間衣裳戸棚の中をかき廻していたが、結局いつもの制服のようなプロシアン・カラーの服を着て来た。ちゃんとアイロンがあててあった。
 やがて昼食のテーブルについたが、誰も喰べものが喉へ通らないふうだった。
 トクさんは塩辛くて喰べられないというし、ピロちゃんは鮎子さんがいつ
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