《ヒュッテ》のお茶に招待するところまでこぎつけたというのである。
チビの鮎子さんが、皆に押し出されて、紳士の前まではって行った。ピョコンとひとつお辞儀をすると、
「あたしたちのところへ、明日《あす》、お茶に来て、ちょうだい」
と、いった。
チャーミングさんは、なんともいいようのない美しい微笑をうかべながら、たいへんに慇懃《いんぎん》な口調で、お招きにあずかって有難い、といった。
鮎子さんは、紳士があまり丁寧なので、面くらってひっくりかえりかけ、あぶなく紳士に抱きつくところだった……。
夕方から夜にかけて、六人のお嬢さんたちは、みな、とりとめなくなって、ただもうソワソワと立ったり坐ったりばかりしていた。
その夜半《よなか》、キャラコさんは、梓さんがしきりに寝がえりをうつので、いくども眼をさました。
次の朝、曙《あけぼの》の光がまだずっと向うの山脈《やまなみ》を薄桃色に染めているころ、みな、一せいに起き出してドタバタ騒ぎはじめた。
テルモスや、古《ふる》カードや、ワックスの鑵や、こわれた八|角《かく》手風琴《てふうきん》や、兎耳《うさぎみみ》や、ちぎれたノルウェー・バンドの
前へ
次へ
全53ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング