方八方から異口同音にこたえる。
「世界一の手相見が、これからキャラコさんの未来を占うところなんです」
 マキ子は舌打ちをして、
「ちえッ、くだらねえ。……そんなところにいないで、みンな、こっちへ来いよう」
 しかし、誰も輪を離れてゆくものがない。
 山本氏はキャラコさんの掌《て》を眺めていたが、何か異常な発見でもしたように、おお、と低い感嘆の声をもらし、キラキラ光る眼で一同の顔を見廻したのち、低い声で語りだした。
「これは、実に非凡な手です。何十万のうちに、稀《まれ》にたった一つこのような手に出っくわす。……順序よく申します。まず、だいいちに、この方《かた》はたいへんに勇敢な気性だ」
 越智氏が、馬鹿にしたような口調でいった。
「みな尻込みしているうちに、最っ先に出てゆくんだから、そりゃア勇気があるほうでしょうな」
 みな、どっと笑いだす。
 山本氏は耳もかさずに、
「あなたは非常に健康で、これは、晩年までつづきます。聡明で沈着で、たいへんに忍耐強い」
 ワニ君が口を出す。
「それは、僕も認めます」
 シッ、シッ、という声が起こる。
「……卑猥《ひわい》にも不潔にもなじむことがない。あ
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