の小間使いぐらいにしか見えまい。無理にこんなところへ連れだしておいて、こんななりをさせて置く沼間夫人も沼間夫人だと腹がたってきた。なにしろ年ごろなのだから、こんな素直な娘でも、心の中ではやはり情けなく感じているだろうと思うと、秋作氏は急にキャラコさんが可哀想になってきた。このふうでは小遣いなんかも持ってないにちがいない。
 秋作氏はキャラコさんの本当の気持を知らないものだから、槇子たちの組からはずれて、ここでしょんぼりしているのは、お小遣いがないせいなのだと曲解した。
「おい、お前、お小遣いがないんだね。それで、みなからはずれているんだろう。本当のことをいいなさい」
 この質問は、キャラコさんを驚かす。
「あら、お金なら持っていますわ。お父さまからいただいてきましたから……」
 秋作氏は、疑わしそうな顔つきで、
「ふうん、いくら?」
 キャラコさんが誇らしそうにこたえた。
「三円!」
 こんどは秋作氏のほうがあっけにとられる。この贅沢なホテルで半月も暮らそうというのに、たった三円のお小遣い。
 秋作氏は、思わず大きな声をだす。
「三円!」
 秋作氏がなぜそんなに驚くのか、キャラコさんに
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