二人で食堂へはいってきたとき、沼間の一族もそこにいた。しかし、槇子は、この二人づれを見てもなんの反応も示さなかったし、秋作氏のほうもチラリと見かえったきりで、一向顔色も動かさずにずんずん奥のテーブルのほうへ行ってしまった。二人ながらあまりさっぱりしているので、キャラコのほうがかえって驚いたくらいだった。
秋作氏は、もう四五年、長六閣下のところへやって来ないが、毎年クリスマスになると、かならず、とぼけた玩具《おもちゃ》や小さな人形をキャラコさんに送ってよこした。みな粗末なものだったけれども、キャラコさんはうれしかった。長六閣下も、あまり気立てが優《やさ》しすぎる、しょせん、軍人にはなれんやつじゃ、といっている。その秋作氏としては、ちと、どうかと思うやりかたなのである。
秋作氏が、やっと身動きする。のびをして、もの臭《ぐさ》そうに椅子から立ちあがった。
静かにしていたので、ここにキャラコがいることに気がつかなかったらしい。びっくりしたように、遠くからまじまじと眺めてから、大股で歩いて来てキャラコさんの前に突ったった。
(秋作氏は美しいな)
下から仰ぎながら、キャラコさんは、そう思う
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