たまりになっている。いずれも金持ののらくら息子。ダンスとゴルフとドライヴ、この三つのヴァライエティだけが生活の全部で、槇子姉妹《まきこきょうだい》に奴隷のように頤使《いし》されるのをたいへん光栄に存じている。ところで、この社交室に欠かしたことのない沼間夫人の顔が見えないのは、たぶんお散歩の時間にあたるからであろう。
 こんなとこにまごまごしていないで、はやく逃げ出せばいいのにと、剛子がやきもきしているのに、猪股氏のほうは立ちあがることも忘れたように、見るもあわれにしおれかえっている。
 いつまでたっても猪股氏が動かないので、槇子はすっかりじれてしまい、いきなり揺椅子《ロッキング・チェア》から飛び起きると、
「じゃァ、こっちが逃げだそうッと……。あたしは、これから着がえをするから、見たい奴はついておいで」
 ワニ君と、ポン君と、アシ君が先を争って立ちあがる。
「僕」
「ぼくもゆく」
「ぼく」
 越智氏が中腰になって、あわててひきとめる。
「散歩なんぞいいじゃありませんか。なにか、もうひとつうたってくださいよ」
 槇子は、いましがた社交室へはいってきた老人を露骨に指さしながら、
「あなただ
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