人たちに会って、誘われてここへ来たというのは、絶対にうそじゃないの……それで、あたし、どうなるのかしら?」
「あなたが、心配なさることはなにもない。あの事件にしても、たいして重く見ているわけじゃありません……ただ、秋川さんのご子息があの家へはいりこんだとき、女中が騒いだもんだから、近所がみな出てきた。そのなかに、ご子息の顔を見たものも、いるわけで……」
「そんなら、あのひとを呼び出せばよかった。あたしに、そんなことをおっしゃるのは、なぜなの?」
「秋川さんのご子息が、モノを取る目的で空巣にはいったとは、思えない。秋川氏は、知名人士のなかでも高潔な方だし、子息のほうにも、悪いうわさはない……たぶん、なにか、わけがあったのでしょう。あす、軽い気持で署へ来て、事情を話してもらえば、それで事はすむのです。当人に、堅い話をするより、あなたなら、やさしく話しても、了解してもらえそうだったから……災難だと思って、あす、あなたもいっしょに……」
 サト子は、きっぱりとこたえた。
「かならず、行かせるようにします。あのひとのためにも、そのほうがいいのでしょうから」
 秋川は、久慈という家で美しい娘を見た
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