ので、あっちからこっちと、垣根を越えて、とんでもないほうへ抜けて行くもんだから……」
「おうかがいしますが、このへんへ飛びこんでくると、やはり拳銃で撃つんですか」
「あくまで逃げようとすれば、撃つこともあります」
「そんな騒ぎをするなら、よそでやっていただきたいわ。すみませんけど、むこうのひとたちに、そう言ってください」
「ごもっともです。そう言いましょう」
「それは、どんなひとなの?」
「チンピラです。灰色のポロ・シャツを着ていたというんですが……」
 サト子は、むこうの縁端に畏っている青年のほうを、指でさした。
「灰色のポロ・シャツを着たチンピラなら、あそこにもひとりいるわ」
 庭先に立ったまま、私服は探るように青年の顔をながめていたが、
「いやァ」
 と笑い流し、西側の木戸から、みなのいる地境へ行くと、こちらへ尻目つかいをしながら、頭をよせあって、なにか相談しだした。
 空巣の青年は、追いつめられたけだもののような、あわれなようすになって、むこうの玄関につづく広廊のほうへ、うろうろと視線を走らせた。
 警官たちは感づいている。いま逃げだしたりしたら、遠慮なく撃たれるだろう。
 美
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