しすぎる面ざしをした、ひ弱い青年が、胸から血をだして死んでいく光景を見るのは、ありがたいというようなことではない。
サト子は、籐椅子から立ちあがると、なにげないふうに青年のそばへ行って坐った。
「あなたは相当な人物なのね、見かけはやさしそうだけど……」
「……」
「この春から、ずいぶん、かせいだらしいわ」
青年は、はげしい否定の身ぶりをした。
「それは、ぼくじゃありません」
「でも、久慈という家へはいりこんだのは、あなたなんでしょう」
青年は、うなずくと、低く首を垂れた。
バカげたようすをするので、腹をたてて、サト子が叱りつけた。
「向うで見ている……顔をあげなさい」
青年は顔をあげると、涙に濡れた大きな目で、サト子の顔を見返した。
「つかまったら、空巣にはいったというつもりでした……でも、ほんとうに、ぼくは空巣じゃないんです」
「そんなら、あのひとたちにそう言うといいわ。悪いことをしたのでなかったら、恐がらなくともいいでしょう?」
「ぼくがそう言うと、あのひとたちは、では、なにをしにはいったと聞くでしょう……ぼくには、それが言えないんです。それを言うくらいなら、死んだほうが
前へ
次へ
全278ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング