ましです」
「そんな声をだすと、あたしが同情するだろうと思うなら、見当ちがいよ。あなたを庇《かば》ってあげる義理なんか、ないんだから」
「でも、さっき……」
「約束だから、朝からここにいたと言ってあげますが、それ以上のことは、ごめんだわ」
「ぼくが、なにをしにあの家へはいったか、知ってくだすったら……」
「もう結構。じぶんでしたことは、じぶんで始末をつけるものよ」
青年は、海の見えるほうへ顔をそむけながら、
「ぼくは、もう死ぬほかはない」
と、つぶやくように、言った。
打合せがすんだのだとみえて、三人の警官が、まっすぐに濡縁のほうへやってきた。
「すみません、水を、いっぱい……」
もう一人の警官が、言った。
「ついでに、私にも……失礼して、ここへ掛けさせていただくべえ」
しゃくったような言いかたが、サト子の癇《かん》にさわった。
「お水なら、井戸へ行って、自由にお飲みになっていいのよ」
「はァ、すみません」
一人が濡縁に腰をおろすと、あとの二人も、狭いところへ押しあって掛けた。
「お嬢さん、失礼ですが、あなたは由良さんの……」
「由良は叔母です。あたし留守居よ」
若い警官
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