きから、飛びだすかもしれないから、気をつけろ」
「オッケー」
こちらの警官は、機械的に拳銃のある腰のあたりへ手をやった。
「お邪魔します」
また一人やってきた。
玄関のわき枝折戸《しおりど》を開けてはいってくると、いきなり庭の端まで行って、下の海を見おろした。
前庭の端は二十尺ほどの崖になり、石段で庭からすぐ海へおりられるようになっている。
サト子は、広縁の籐椅子から声をかけた。
「そんなほうにも、空巣がいるんですか」
人のよさそうな中年の私服は、こちらへ顔をむけかえると、底意のある目つきで、青年のほうをジロジロながめながら、
「コソ泥が、このへんから海へ飛びこんで逃げたことがあります……むこうの和賀江の岬の鼻をまわって、小坪へあがるつもりだったらしいが、泳ぎ切れずに、溺れて死にました」
言いまわしのなかに、なにかを嚊ぎつけたひとの、うさんくさい調子があった。
「えらい騒ぎね。いったい、なにを盗んだんです?」
「この春から、もう二十回ぐらい、このへんの家を荒しまわっているやつなんで、けっして、はいったところから出て来ない。このへんは、垣根ひとつで庭つづきみたいになっている
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