、あなたがいらしたのも、ウラニウムのことなんでしょう?」
「ウラニウムって、なんのことなの」
「秋川のところへ、話を持ちこむのは、賢明よ。十三億という金を、右から左へ動かせるのは、いまのところ、秋川ぐらいのもんだから」
 奥につづくドアから、秋川がはいってきた。
「無人《ぶにん》の家で、ろくな、おもてなしもできませんが、どうか、夕食を……カオルさんも」
 カオルは、すらりとソファから立って、
「あたし、失礼するわ。年忌《ねんき》のお斎《とき》なんか、まっぴらよ」
 そう言うと、足でドアをあけて、あとも閉めずに部屋から出て行った。

  間違いつづき

 留守居を置いてあるだけ、と言っていた。材料持ちで、ホテルからでもコックを呼んで支度をさせたのだろうか。明るい吊灯《つりとう》の下の食卓にならんだ酒瓶や料理の数々は、簡単なものではなかった。
 食べものは、食後の菓子まで食卓に出そろっている。たがいに給仕をしながら、やる式らしいが、食器はふたりの分しかなかった。
「愛一郎さんは?」
「愛一郎は、失礼するということでした……一週間ほど前から、みょうに元気がなくなって、食べたがらないで、困りま
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