やかね……秋川、あなたのようなタイプ、好きなのかもしれない……そう言えば、死んだ細君に、どこか似たようなところがあるわ」
だしぬけに、起きあがると、
「むこうの部屋に、死んだ細君の写真あるわ。見せてあげましょうか」
と甲走《かんばし》った声で言った。
カオルが言っているのは、勝手にはいりこんだと言って、愛一郎が腹をたてていたその部屋らしかった。
「そんなもの、見せていただかなくとも、結構よ」
「まァ、見ておくものよ。秋川の親子、どうかしてるってことが、わかるから」
サト子を客間から連れだすと、とっつきの階段を、先に立ってあがって行く。庭でも歩きまわったあとらしく、うすよごれたはだしの足の裏に、草の葉が、こびりついていた。
片側窓の二階の廊下の端まで行くと、カオルはそこの部屋のドアをあけた。
三方が窓で、勾配《こうばい》のついた天井を結晶ガラスで葺《ふ》き、レモン色のカーテンが、自在に動くような仕掛けになっている。
壁ぎわのベッドの背板に、いま脱いだばかりというように、薄いピンクの部屋着を掛け、床《ゆか》の上に、フェルトのスリッパが一足、キチンとそろえて置いてあった。
窓
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