ても、土地っ子や漁師の娘といっしょに泳がない、高慢な印象になって残っている。
 そのころ、山岸の別荘はお祖父さんの別荘と庭つづきになっていたので、弟の芳夫は、じぶんの家のように出入りをしていたが、カオルは別荘の奥にしずまって、ヴァイオリンをひいたり、ドイツ語の教師をとったり、たいへんな澄ましかただった。
「何年になるでしょう。こんなところでお目にかかるなんて、思いもしなかったわ」
「あなただって、忘れはしないはずよ……うちのママも、あなたの叔母さまも、戦前の飯島女めらは、まい夏、神月の別荘で親類になった仲でしょう……その子孫ですもの、縁は切れていないのよ」
 ようすのよかった若い時代の叔母が、朝のしらじらあけに、目ざといお祖父さんに見つからないように、神月の別荘から、こっそりと帰ってくるのを、サト子もいくどか見た。
「そう言えば、そうね」
 聞きたくもない話だったが、子供のころの記憶がかえってきて、いくらかカオルをなつかしく思う気持になった。
 カオルが、探るような目つきでサト子の顔を見た。
「どちらに、ご用なの? おやじのほう? せがれのほう?」
 また誤解されそうだ。サト子は、美術
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