ンの仲間だと思っている。心にもなく庇いたてしようとするのが、その証拠だった。
「ご用がおありになるんだったら、お強《し》いはしませんが」
 サト子は、あわてて笑顔をつくった。
「……あたし、荻窪の植木屋の離屋に、ひとりで住んでいますのよ。帰っても、きょうは、もう寝るだけ」
 女たちが、はやしたてた。
「……とか、なんとか、言ってるわ」
「おやすみなさい、おねえさん」
 秋川は、暖かい大きな手で、そっとサト子の腕にさわった。
「そういうことだったら、無理にもお誘いしますよ」
 愛一郎の家へ行けば行ったで、うるさいことがはじまりそうだったが秋川の親切には逆《さか》らいかねた。
「おじゃま、しようかしら」
 だしぬけに、愛一郎が額ぎわまで赤くなった。腹をたてているとも、恥じを忍んでいるともとれる、複雑な表情だった。
 三人がティ・ルームを出ると、いちばん若いのがサト子を追ってきた。
「ねえ、ちょいと……」
 秋川の親子は、なにげないふうに、出口のほうへ歩いて行った。
「水上さんのお嬢さんでしょ?」
 その娘は、目をクリクリさせながら、はずんだような声で言った。
「お忘れ? あたし、大矢のシヅ
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