、足もとにも寄れないほど、かっこうをつけている。
「お話ししたいことが、あるんですけど」
観光季節に、横須賀からやってくる白百合組のショウバイニンを鎌倉の市警は嫌《きら》っている。さっきの若い警官は、鎌倉を職場にしてはこまるというようなことを、この連中に言ったらしい。サト子がその警官と歩いているところを見たので、告げ口をしたのは、こいつだと思いこんでいるのだ。かかりあえば、むずかしいことになるが、逃げられそうもない。
「どういう、ことでしょう」
かわいらしいくらいな顔をした十七八の娘が、あらァと肩でシナをした。
「固っ苦しく、おっしゃられると、こまっちゃう……ご承知でしょうけど、あたしたち横須賀なんです。申しおくれて、ごあいさつもしませんでしたが……」
季節はずれのダスター・コートを着たのが、サト子にウインクをしてみせた。
「お見それして、すみません」
このひとたちは、どうしてこう意地が悪いのだろう。サト子自身も含め、この年代は、男も女も、さまざまな誤解にもとづく、おとなの知らない悩みをもっている。しんみりと話しあえば、わかることなのだが、それは、望んでもむだらしい。せめて、こ
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