計は、十六時五分前をさしている。いまからなら、九分の上りに間に合う。
座を立とうとしたとき、ティ・ルームの入口から、派手な女の顔がのぞいた。
「あそこに、いる」
参道で見かけるショウバイニンが三人、毒のある目つきで、サト子のほうをジロジロ見てる。
世界市民、一号から三号まで……おそろいのように、アコーディオン・プリーツのスカートをはいている。高級な組らしく、これはひどい、というような変った顔はなかった。
赤いナイロンのハンド・バッグをかかえた、小柄なのを先頭に、ゾロゾロとテラスへ出てくると、
「ごめんなさい」
と、サト子の肩をこづいて、うしろの椅子におさまった。いやなことが、はじまりそうな予感があった。
「あのう……」
案のじょう、背中あわせのテーブルから、声がかかった。
「あたくし?」
特徴のあるショウバイニンの顔が、いっせいにニッコリとサト子に笑いかけた。
疲れたようなところがあるが、どの顔も派手派手して、りっぱにさえ見える。アコーディオン・プリーツのスカートは嫌味《いやみ》だが、服も、靴も、アクセサリーも、みなホンモノで、三流クラス以下のファッション・モデルなどは
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