ルームだァ? ショバが広くて結構だよ……飯島あたりに巣をつくっているが、君は百合《ゆり》のひとなんだろう?」
経験と技量によって、ファッション・モデルは、やさしい花の名で四つのクラスに分けられている。一流クラスは蝶蘭《ちょうらん》、二流クラスはガルディニア、三流クラスは菫《すみれ》、それ以下は百合……
サト子は三流クラス以下だから、百合組といわれることには異存はない。
「ええ、百合組よ、新人ですの」
「百合組のひとなら、ラインだけは守ってもらいたいね」
「ラインって、なんのことでしょう?」
「ラインといっても、いろいろだ。マッカーサー・ライン、李《り》ライン、赤線に青線……市には市警の面子《メンツ》というものがある。こんなところで、大きな顔でショバをとられちゃ、見すごしにしているわけには、いかんからね」
警官は、参道でウロウロしているショウバイニンの女たちのほうを顎でしゃくった。
「あいつらにも、言っておいたが、つぎの下りで、いっしょに横須賀へ帰れよ」
横須賀に、『白百合』というショウバイニンの団体があるそうだ。それとまちがえられているらしい。ユーウツだが、腹をたてるわけにもい
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